= 服薬指導について =

病院で患者に薬が渡るまで」(イラスト:中路晶子、ブルーバックス ”薬の飲み合わせ” 澤田康文)を載せています。この様な流れの中で薬が患者さんへと手渡されるわけです。表題の「服薬指導」は⑪のイラストにあたります。簡単な胃薬を例にとり、どの様な指導がなされるか見てみましょう。
Aさんは医療機関で受診して処方せんを受け取りお薬をいただきました。処方内容は下記の様なものでした。
Rp. セルベックス細粒 10% 1.5
3×毎食後 14日分
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自宅の近くの薬局に、頂いた処方箋を持参したところ、薬局の窓口で次の様な質問が矢継ぎ早になされました。「こちらの薬局を利用されるのは初めてですか?」「いままでお薬を服用されて体にあわなかったことはございますか?」「アレルギー体質と言われたことがございますか?」「他にお薬を服用されていますか?」「最後に薬の記録簿(薬歴)を作成していますので、御住所と御連絡先をお聞かせ下さい。」特別の事がない限り、こう言った薬に関する患者さんの情報が収集されます。馴染みの患者さんではこういったことはありませんが、初めての患者さんにとって、色々と聞かれることはちょっと面倒かもしれません。こう言った会話の中で得られた情報は薬の重複や相互作用をつかみ取ることにとても役に立つ訳です。薬が準備されAさんに渡される時に、薬の飲み方・使い方や保管方法、注意事項などが説明されます。前回と同様であれば、前回と同じですよ、或いはどの薬が変わったのか説明がなされます。たまに説明不足もあるかもしれません。その時は電話でかまいませんので気づいた事をおっしゃって下さい。薬局の薬剤師が対応してくれます。
本年四月より、服用している薬が変わった時や初めての薬の場合、その薬の名前(商品名)、効能、注意事項、必要であれば副作用などにつて記載した薬の情報文を手渡す必要が生じて来ました。Aさんの場合ですと、(白い粉薬)、商品名:セルベックス細粒、効能:荒れた胃の粘膜を修復・保護する。副作用:まれに人によって腹部膨満感や便秘が生じる。と書かれた文章が手渡されます。薬局により文章表現や内容の密度に違いはありますが、お薬の特徴は少なくとも伝えられるでしょう。但し薬局の場合、患者さんの病名や詳しい臨床の情報は持ち合わせなく、薬から推察される情報となりますので、必ずしも十分とは言えないでしょうが担当の先生に聞きにくいことでも気楽に話せるという利点もあります。またどうしてもこう言った薬の情報で担当の先生に連絡していただきたい時は、薬局から医療機関への連絡がとられます。
薬の情報を伝える取り組みは今始まったばかりです。従来口頭で説明がなされていたものが多くの場合、文章での情報伝達となってきました。限られた時間の中で必要な情報を伝える難しさがあります。字が下手な私の場合、急いで書けば更に見づらいと思ったりしますし、患者さんの性格や受け入れ方も多種多様です。不足する部分は口頭で、相手方に合わせた説明となるのも仕方ありません。でもこう言った取り組みは必ず患者さんにとって薬に対する意識を向上させることにおいて役に立つことは間違いないでしょう。
お薬の情報を伝える中で、例えばAさんが、歯科や整形外科で痛み止めをいただいていることが分かれば、医療機関へと情報を伝えることが出来ます。患者さんの中には、何も言わないでほしい、とおっしゃる方もいますので、如何に伝えるか難しい面もあります。薬の飲み合わせや重複を防ぐ意味において、医薬分業に限らず、院内投薬でも、服薬指導(薬の情報提供)は大切となってきます。
= 服薬指導について(その1) = 医療機関のお薬の情報を提供する文章が手渡される事になりました。この取り組みはまだ始まったばかりなので、各薬局でもどう具体化していったらよいか検討中のところが多い様です。当薬局でも取り合えず代用品(とても簡単なもの)を利用させて頂いたりしていますが、いずれはもっとしっかりした内容のものを提供しなくてはけないと考えています。種類の多い薬の中から必要な情報を提供していく作業はとても難しいものがあります。忙しい時等は、文章迄お渡し出来ずに口頭だけの説明もあります。
それでは、今日初めて受け付けた処方箋の中から1つ具体例を取って説明文を記載します。(これからこう言った文章を作成していく予定です。)
Rp. アダラートL20mg 2T フランドル 2T 2×朝・夕食後 14日分 |
この薬を初めて服用される場合と既に継続して服用されている場合とでは説明の仕方が可也変わってきます。この場合、ご自身の病状はもとより服用されている薬に関して理解されていましたので敢えて説明の文章をお渡ししませんでした。軽く「血圧・循環器の薬です。今迄通りに服用されて下さい。」と言った程度ですみました。今迄服用されていてどんな薬か分からない方であれば次の様な説明に相当する文章が手渡される予定です。

= 服薬指導について(その2) =
最近糖尿病の患者さんに比較的良く利用される様になった薬に「食後過血糖改善剤」と言う長い名前の薬があります。糖尿病の薬同様に服薬指導の大切な薬の1つです。
では、実際の処方箋の中から見てみましょう。
Rp. ① オイグルゴン2.5mg 3T
3×毎食前 14日分
② ベイスン0.3 3T
3×毎食直前 14日分
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①の薬は血糖降下剤、所謂糖尿病の薬です。糖尿病を治す薬ではなく、糖尿病をコントロールする薬です。膵臓から分泌さるインシュリンの分泌を促進し、血糖値(血糖中の糖分の値)を下げる作用があります。
初めての薬が処方される場合は、食事療法・運動療法の指導を受けながら、少量から開始されます。その後血糖値の動きを観察しながら服用量が決定されます。
さて②の薬についてです。この薬は血糖値を下げる薬ではありません。この薬の分類名「食事過血糖改善剤」から分かる様に、食事の後に急激に血糖値が高くなるのを防ぎ血糖値をなだらかにする薬です。分かり易く言いかえれば食物の吸収を遅くさせる薬と言えます。
従って、服用方法は食後に服用するのではなく(食後に服用しても効果がでない)食事の事前に服用を行い食物の吸収をゆっくりとさせなくてはなりません。糖尿病の方の症状や合併症の発症や進展を抑える事が目的で服用される薬です。
単独に服用して低血糖を起こす事はありませんが、他の糖尿病薬との併用で、もし仮に低血糖が起こった場合には、ショ糖ではなく、ブドウ糖を服用する事が必要となります。不快な症状としては、食物の吸収を遅くすることから腸内ガスの発生に伴い腹部膨満感や放屁が発生し易くなります。しかし、この薬は同類の薬に比較して、こう言った副作用の少ないお薬です。
= 服薬指導について(その3) = 喘息に用いられる薬には、発作が起こった時に止める目的に使用される薬と、発作が起こらない様に予防する目的で使用される薬があります。実際の処方箋の中で見てみましょう。
Rp.①ユニフィル200 2錠 1×夕食後 14日分 ②プロンコリン50 2錠 ③オノンカプセル 4カプセル 2×朝食後・就寝時 14日分 ④ポノフェン 3錠 3×毎食後 14日分 ⑤ベコタイド50インヘラー 1本
⑥メプチンエアー 1本
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①の薬は気管支拡張剤と言われる薬です。気管支を拡げて呼吸を楽にし、発作を止めたり予防したりします。専門の言葉でテオフィリン製剤と呼ばれる薬です。一日1回(夕食後)の服用で喘息発作の起き易い夜間から早朝にかけて効果を強く発揮する薬です。24時間持続した効果が期待できます。 ②に薬は作用時間の長いβ2刺激剤と呼ばれ、気管支を拡げる作用があります。心臓への影響の少ない薬が開発されているとは言っても、頻脈や動悸亢進が生じる事が少なくありません。特に甲状腺機能亢進症のある方や心臓のデリケートな方は注意が必要となります。又β2刺激剤の副作用の一つとして手指振戦をきたす事があります。どうしても気になる症状の時には医師に御相談され、他の薬剤に変更して頂いて下さい。 ③ロイコトリエン受容体拮抗剤と言われる薬で、抗アレルギー性の喘息治療剤の発展したタイプの薬です。気道収縮反応や気道の血管透過性を抑えたりする薬で、他の薬剤と一緒に用いられ、ステロイド剤等の強い薬の軽減目的や他の薬剤の治療効果を高める為に用いられます。発作を止める薬ではなく、喘息発作の予防(回数を少なくする)に使用されます。最近開発された新しい薬です。 ④喀痰排泄を容易にする為の去痰剤です。市販の風邪薬にも入っています。特別指導の必要のない薬です。 ⑤の吸入剤は喘息発作の回数を軽減する為に使用されるものです。発作が起こった時に使用するのではなく、発作が起こらない様に日頃から定期的に(一日4回程度、一回2吸入)使用されるものです。薬の常用で口の中にカンジダ(かび)が発生し易いので、吸入の後はうがいをされて下さい。
⑥発作を止める目的で使用される吸入剤です。作用的には②の薬と同じです。発作は起こった時に一回2吸入を行います。使い過ぎは心臓・循環器系に負担をかけますので必要最低現にされて下さい。
= 服薬指導について(その4) = 今回は肝臓の疾患で用いられる薬についてです。処方箋に記載された薬で見てみましょう。
Rp. ①プロヘパール6錠
② EPL 6カプセル
3×毎食後 14日分
③小柴胡湯 7.5g
3×毎食前 14日分
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①のプロヘパール(茶色の大きな錠剤)は肝臓水解物やアミノ酸、ビタミンを配合した肝機能改善薬です。1日3錠ないし6錠を服用します。市販のレバンコンクやビィーレバーと言う液体の薬を錠剤化した様なものです。 ②の薬はコレステロールの排泄を促進して脂肪肝(肝臓のまわりの余分な脂肪)を軽減する薬です。 ③の薬は漢方薬(煎じ薬でなくエキス剤)です。葛根湯や八味地黄丸と同じ程度によく知られたお薬です。この小柴胡湯は漢方薬の中の柴胡剤(サイコと言う生薬が主体となる漢方)と言われる薬の範疇に入ります。体力が中程度の方に利用されます。肝機能改善薬として使用される事の多い漢方薬です。本来、この柴胡剤は東洋医学で言う胸脇苦満(みぞおちの辺りの苦満)を呈する症状に用いられます。患者さんの証(体質)に合わせて、柴胡剤の中でもこの小柴胡湯が選択されるか、大柴胡湯が選ばれるか、柴胡桂枝湯が用いられるか他の柴胡剤が利用されるのかが決定せれます。漢方薬は空腹時服用が基本ですが、食前や食間に服用し忘れる方は食後でもかまいません。兎に角必要量を服用する事が大切です。①~③の薬以外にも解毒機能や肝臓を促進する効果のある薬や総合ビタミン剤、消化酵素剤、胆汁の分泌を促進する(利胆剤)薬が必要に応じて処方されます。又症状の程度によっては利尿剤や高アンモニア血症を治療する薬が加わる事もあります。(「NHKきょうの健康」4月号(定価470円)に”肝炎~新しい検査と治療~”と題して詳しい健康の記事が載っています。関心のある方はお読みになられて下さい。)
= 服薬指導について(その5) = 今回はパソコンを利用した服薬指導の文書の一部を載せています。ピル・ブックと言う医療用のお薬について説明した本を基本にして作成されたものです。薬局の窓口で薬代(窓口一部負担金)を計算する時に利用されるパソコンと連動したものです。薬の作用をはじめ副作用に関する事についてもかなり詳しく説明されています。我々薬剤師の仕事がなくなってしまう程の情報です。泌尿器科で処方された薬を実例にとっています。
Rp. ①ハルナール0.2 1カプセル
1×朝食後 14日分
②パラプロスト 6カプセル
3×毎食後 14日分
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①ハルナール 【成分名】塩酸タムスロシン(tamuslosin hydrochloride) 【何の薬?】排尿障害治療のα1ブロッカー薬 【主な作用】交感神経のα1受容体を遮断してβ作用を増強する事によって、たかまった尿道の圧力を下げると言う作用により、前立腺肥大症で尿が出にくくなった人での尿を出易くします。 【副作用等】血圧を下げる傾向があるので、過敏な人では急に立ち上がった時、血圧が下がってふらついたり、吐き気等を起こす事があります。 【用い方と注意】1日1回食後に服用します。服用量、飲み方は症状により変えられますので、医師の指導を守りましょう。血圧が低下してふらつきが起こる事があるので、危険な作業や車の運転は避けましょう。ふらつき等が強い時にはその旨を医師に伝え飲み方の指導を受けましょう。 ②パラプロスト 【成分名】パラプロスト(Paraprost) 【何の薬?】排尿障害の治療薬 【主な作用】L-グルタミン酸、L-アラニン、グリシンの合剤で、前立腺の周囲の腫れを取るので、前立腺肥大に伴う排尿困難、残尿感や頻尿等の症状を改善します。 【副作用等】胃痛、胸焼け、吐き気、頭痛等が起こる事があります。 【用い方と注意】暫く続ける事になるので、医師の指導をよく守って服用しましょう。 副作用に関しても種々記載されています。デリケートな方は気になってしょうがないかもしれませんが、こう言った症状は必ずしも服用された方全員に生じる訳ではありません(②の胃痛・胸焼け・吐き気・頭痛等)。こう言う事も人によっては生じますよと言った程度の場合が多い事もあります。但し、薬の作用(薬理作用)からもたらされる①の血圧を下げる作用は、注意しなくてはいけません。お薬が手渡される時に口頭で補足されたり、強調されたりする事があります。一番大切な事はお薬を服用され始めて気になる症状や変わった事があれば、遠慮なく担当の先生に御相談される事だと思います。(今回利用した情報は、96薬の辞典、ピルブック最新医薬品データーベースCD-ROMからです。)
= あなたにお出ししている薬の説明 =
初めていただく薬や以前服用していた薬から他の薬に変わった場合には、お薬の説明の文章をお渡ししています。皆様方は最低限知っていただきたい情報を伝えているつもりですが、言葉足らずな箇所はお許し下さい。説明不足な点は口頭で補足説明させて頂きます。何かお薬の事お聞きしたい事はご遠慮なくご相談下さい。
【薬の型】
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【薬を区別するコード】
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【この薬は何に効くのですか】
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錠剤
白
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611
(商品名:フランドル)
・毎食後1日3回服用
・朝・夕(食後)1日2回服用
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心臓に栄養を送る血管(冠動脈)を拡げて血液の流れをよくして心臓の負担を軽くします。末梢の血管を拡げて血圧を下げる作用もあります。
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↓ |
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【注意してください】
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人によって顔のほてり、頭痛、ふらつきなどが生じます。
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【この薬は何に効くのですか】
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錠剤
濃いオレンジ
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BYA20
(商品名:アダラートL20mg)
・1日1回朝食後用
・1日2回朝・夕服用
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血管を拡張させて血圧を下げたり、心臓の負担を軽くしたりします。すばやく血圧を下げます。
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【注意してください】
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人によって熱感、顔面が紅潮したり頭痛が生じたりします。
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*気になる症状が現れた時には、医師にご連絡下さい。 |